フランス特許庁との特許審査ハイウェイ(PPH)試行プログラムについて
2021年1月1日より、日本で特許可能と判断された出願について外国特許庁で「早期審査」を受けることができる「特許審査ハイウェイ(PPH)」がフランス国でも可能となるようです(※1)。なお、パリ条約に基づく優先権の利益を得るには優先期間内(日本における最初の特許出願日から1年以内)にフランスに直接出願することが必要です。当事務所でも日本からフランスへの直接出願はかなり以前に出願実績がありますが、最近はすべてPCTルート(それもEuro-PCTルート)でした。
特許庁発表の最近の統計を見ても、日本からフランスへの直接出願は少ないようです(※2)。しかし、今年(2020年)のフランス特許法改正によりフランスでも進歩性に関する実体審査が開始されたこと(※3)を受け、今後は直接出願を行うかPCT出願をフランスに国内移行したうえで、上記PPHプログラムを利用すれば、フランスで早期権利化できるメリットがあると考えられます。もっとも、Euro-PCT出願(PCT出願から欧州特許庁に移行する出願)とは異なり、直接出願の場合、明細書と特許請求の範囲の全文のフランス語翻訳が必要ですが、今般の改正により、優先期限までに外国語(日本語や英語等)で出願しておき、後日フランス語翻訳を提出することもできるようになりました。EuroPCTの場合、以前に当事務所ブログでも紹介したロンドン協定(London Agreement)により英語で欧州特許庁(EPO)に出願でき、EPOで実体審査をクリアした後にフランス国で権利有効化(バリデーション:クレームのフランス語翻訳を提出して手数料を支払うなど権利化のための所定の手続)を行えばすむので、上記PPHプログラムが利用される余地はないと思われるものの、フランスでのみ権利化を急ぐ場合には、上記PPHの利用したフランスでの実体審査は有効と思われます。
欧州での特許権取得に際しては、欧州におけるビジネスの優先順位や現地代理人の意見、他国への出願状況などを総合的に考慮して、事案に応じた最適なルート、最適な順序で出願・権利化していくことが望まれます。
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※1 経済産業省ウェブサイトより https://www.meti.go.jp/press/2020/11/20201127002/20201127002.html
※2 特許庁ウェブサイトより フランス国特許制度の概要、統計情報
https://www.jpo.go.jp/system/laws/gaikoku/document/mokuji/fr.pdf
※3 JETRO(デュッセルドルフ事務所)からの報告 「フランス産業財産庁、特許付与の要件として進歩性要件を導入」 (2020年5月25日付け)
https://www.jetro.go.jp/ext_images/_Ipnews/europe/2020/20200525.pdf