米国意匠特許の判断基準について(日本国意匠権との相違)LKQ v. GM
米国意匠特許の審査基準に関して重要な判決1)を紹介する。判決日は2024年5月21日である。
事実関係
LKQ社は、自動車のフロントフェンダー部分に関する意匠特許権者(GM社)に対して米国特許庁に無効(当事者系レビュー)を求めた。LKQ社は新規性及び非自明性欠如を主張したが、USPTOは意匠特許の新規性はありと判断しつつ、非自明性判断についても、従来の確立した判例基準(Rosen-Durlingテスト)を適用して非自明性ありと判断し、結論としてLKQ社の請求を退け、GM社の意匠特許は維持された。
そこで、LKQ社はCAFC(米国巡回控訴裁判所)に提訴した。
LKQ社は従来のRosen-Durlingテストが、実用特許(Utility Patent)の非自明性判断に関するKSR事件(最高裁判決:KSR International Co. v. Teleflex Inc., 550 U.S. 398, 1 (2007))の判旨に反すると主張したが、CAFC(通常のパネル)はUSPTOの結論を支持し、LKQ社の主張を退けた。
そこで、LKQ社は、大法廷による判例変更が必要であると主張して再審理を請求し、CAFCはこの請求を受理し大法廷審理を開始した。
大法廷審理の結論
- 従来の判断基準(Rosen-Durlingテスト)はKSR判決の判旨と矛盾するから無効とされるべき
- 意匠特許も実用特許と同様の非自明性基準で判断されるべき
- 新規性ありとしてUSPTOの審決を支持する部分のパネルの判決を再度有効とし、非自明性については、事件をPTABに差し戻す
CAFC(大法廷審理)では、実用特許と意匠特許との違いは認めつつ、非自明性判断に関する103条の規定は双方に当てはまる、と結論づけた。
なお、USPTOは上記判決を受け、判決の翌日(2024年5月22日)に審査官へのメモ1)を発表している。
実務への影響(私見)
- 我が国の意匠法3条2項(創作非容易性)の判断は、当業者を基準とする点で、仮に新規性があっても当業者が容易に創作できる程度の意匠は意匠登録の要件を具備せず拒絶される。従って、上記米国意匠特許に関する判例変更及び審査基準の変更は、我が国の意匠登録出願を基礎出願として米国意匠特許を出願する出願人にとっては、実務上、大きな問題にはならないのではないか。
- 一方、すでに成立している米国意匠特許に対して、無効審判請求(当事者系レビュー)を請求すれば、無効にされる可能性が従来より高まる結果、交渉による和解の余地が広がることを意味すると考える。
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1.LKQ CORPORATION v. GM GLOBAL TECHNOLOGY OPERATIONS LLC , No. 21-2348 (Fed. Cir. 2024)
https://www.cafc.uscourts.gov/opinions-orders/21-2348.OPINION.5-21-2024_2321050.pdf
2.USPTOが発表した審査官へのメモhttps://www.uspto.gov/sites/default/files/documents/updated_obviousness_determination_designs_22may2024.pdf