一部継続出願(Continuation-In-Part Application)
米国特許制度で「一部継続出願(CIP; Continuation-in-part Application)」という制度が知られている。CIPは、我が国で言う国内優先権と分割出願を足して2で割ったような制度である。すなわち、元の出願(親出願)を基礎として新たに特許出願することを認める制度であるが、国内優先権のように先の出願に対して新規事項を追加することが認められる。しかも、一部継続出願には、国内優先権制度のような1年以内という縛りがなく、親出願が登録される前であればいつでも行うことができる点で、国内優先権制度よりも出願人の利益が保護される制度といえる。PCT出願の米国国内移行の際に国内移行ではなく一部継続出願を利用するいわゆるバイパス出願などとして活用されることもあるが、理論的には、親出願の「登録前」までのいつでも利用できる制度であるから、登録料納付後であっても登録前ならば一部継続出願をすることができる(※1)。
我が国特許法の国内優先権制度(特許法第41条)は、改良発明などを包括的に権利化する制度として利用価値が非常に高い制度として知られている。しかしながら、最先の出願日から1年以内という時期的制限があるため、開発期間がそれ以上の長期間に亘る技術については、国内優先権制度を利用することができない。この制度は、当職の理解するところでは、もともとパリ条約4条Fの優先権(複合優先)で外国から我が国に出願する者に対して認められている権利と同等の権利を我が国の国内出願に対しても認めようという趣旨で導入されたものであるため、パリ条約4条と同様の1年間という時期的期限が要件として加わった経緯がある(※2)。
我が国特許法の分割出願制度(特許法第44条)は、原出願(親出願)に複数の発明が記載されていた場合にその一部を分割して新たな特許出願とする制度であり、単一性違反(特許法第37条)の拒絶理由を回避するため、或いは極めて重要な特許出願については戦略的に「権利の帰趨が未確定の状態の子孫を残す」といった戦略的な目的のために利用されている(※3)。
分割出願の時期的要件は簡単にいうと、原出願(親出願)について補正可能な期間、特許査定後30日以内、及び拒絶査定不服審判の法定期限まで(特許法第44条第1項第1号~第3号)である。すなわち、国内優先権で認められる1年を超えて新たな特許出願を認める制度である。現在の分割出願制度は、近年の法改正により、分割出願の要件を満たしていることを説明する上申書の提出が求められたり時期的要件の違いによって基準明細書が異なっていたりと、若干の細かな修正があるが、大原則としては、原出願に開示された範囲を超える新規事項を追加することができない(※4)。これは、分割出願は手続補正同様の遡及効が認められるため、出願人が得る利益と第三者が受ける不利益とを比較衡量した結果と考えられる(※5)。
一部継続出願の場合、新規事項として追加したクレームに関する特許性の判断は、現実の出願日とされるので、第三者に不利益を与えることがなく、まさに国内優先と分割出願のいいとこ取りのような制度であるといえる(※6)。ただ、現状としては米国独自の制度であるため、他国で同様の発明について保護を受ける方法は限られる。また、権利の存続期間についても最先の親出願から20年間であること、親出願の出願経過記録に対しても包袋禁反言の法理が適用されるといったことは、デメリットといえ、これらの点に留意する必要がある。
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※1 出願人が親出願の登録料を納付した後、登録がいつされるかは米国特許庁次第であり、出願人側でコントロールできないため、実務上は登録料納付までに一部継続出願を完了させることが好ましいであろう。
※2 パリ優先権との相違点の1つは、国内優先権出願は「先の出願」(基礎出願)が一定期間経過後に取下擬制(特許法第42条)されることである。
※3 統計などは確認していないが、特許制度を十分に活用する企業ほど国内優先権制度や分割出願の利用頻度が極めて高いと想像する。
※4 分割出願の要件違反の効果は分割出願の利益喪失(=遡及効が認められなくなること)であり、その判断基準日は、査定又は審決時までである。そのため、仮に出願時点では分割出願の要件に違反していても、その後有効な手続補正によって治癒されうる。
※5 もっとも、分割出願で追加された新規事項についてのみ遡及効を認めないようにすれば実質的に一部継続出願と同様の制度になるとも考えられる。ただ、我が国の国内法に関してそのような議論は少なくとも当職の知る限り聞いたことがない。
※6 新規事項(New Matter)を追加してもよいが、新規性のない発明を追加しても拒絶されるだけである。
なお、本稿は米国特許制度の紹介であり、米国法に関するいかなる法的アドバイスを行うことも意図しない点を念のためお断りしておく。