商標法3条1項各号違反と4条1項11号違反
我が国の商標登録出願は、一部の諸外国とは異なり、「商標登録を受けるための実体的登録要件の有無」を特許庁の審査官が判断する「実体審査」を伴う。商標登録出願で拒絶理由通知を受けることは少ないが、全ての拒絶理由を完璧に回避することは難しく、一部の出願は拒絶理由通知を受けることになる。例えば、出願前の段階で認識はしていたが検討の結果、商標登録の可能性がやや小さいと判断していても可能性がゼロではないという場合に敢えて出願する場合、などである。一般に、拒絶理由は多岐に亘るが、典型的な拒絶理由として、出願商標の「識別力がないこと」を理由とする拒絶理由通知(商標法3条1項各号違反※1)や同一又は類似する先行登録商標の存在による拒絶理由通知(商標法4条1項11号違反※2)が挙げられるので、本稿ではこの2つに着目する。
前者(商標法3条1項各号違反)を受け取った場合、かつ、その後拒絶査定が確定した場合でも、他人の商標権を侵害する可能性は小さいと判断できる。よって、「商標権による独占的使用」という所期の目的はかなわないとしても、識別力がないと判断された出願商標を使用することは、差し支えないと判断できる場合は多いと考えられる。
これに対して、後者(商標法4条1項11号違反)を受け取った場合、かつ、どうしても拒絶理由を解消できずその後拒絶査定が確定した場合はどうか。この場合、出願商標の使用を継続することは、拒絶理由で引用された他人の先行登録商標に基づく商標権侵害による訴訟リスクを伴う。このため、一般論として、出願商標を使用している場合は、使用を中止することが賢明である。
このように、同じ拒絶理由に承服して権利化を断念する場合でも、識別力欠如を理由として拒絶される方が、出願商標の使用を継続できる点で、出願人にとってはメリットが大きい。
もっとも、どのような拒絶理由通知を受ける可能性があるかは出願前の時点である程度までは判断可能であるので、必要であれば弁理士等に事前に相談することも有益である(※3)。
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※1
(商標登録の要件)
第三条 自己の業務に係る商品又は役務について使用をする商標については、次に掲げる商標を除き、商標登録を受けることができる。
第四条 次に掲げる商標については、前条の規定にかかわらず、商標登録を受けることができない。