発明の認定

弁理士が日常業務で作成する特許に関する書類といえば、当事務所の場合、特許出願の明細書・特許請求の範囲及び図面、意見書・手続補正書、拒絶査定不服審判請求書、刊行物等提出書、特許異議申立書・異議意見書、特許無効審判請求書・答弁書、特許権についての侵害鑑定書、特許権侵害訴訟における訴状・答弁書、原告準備書面・被告準備書面などがパッと思い浮かぶ。

これら全ての書類作成に必要な作業の1つに「発明の認定」がある。発明の認定は、要するに、文献等に記載された事項のうちどの部分に着目し、そこからどのような発明を認定(抽出)するかということであり、主張の論旨を決定づけるうえで極めて重要である。認定が間違っていれば誤った結論が導かれる可能性が高い。認定すべき発明は、例えば「本願発明」であったり、「本件特許発明」、「引用文献記載発明(引用発明)」、「甲号証記載発明」、「イ号発明(製品、方法)」等々、書面や対象によって言葉遣いが変わる。呼び名の違いは立場の違い(例えば、出願人か特許権者か、異議申立人か特許権侵害事件の被告か等)による。

発明を正しく認定する手法を身につけると、審査官や審判官、対立当事者等の主張に同意できないとき、反論すべきポイントを理論的に正しく指摘できるようになる。

進歩性判断の手法を例にとると、1.本願発明の認定、2.引用発明の認定、3.対比(一致点と相違点の認定)、4.判断(結論)といった流れになるし、鑑定事件の場合、1.本件特許発明の認定、2.イ号発明(イ号製品・イ号方法)の認定、3.対比(充足性判断)、4.判断(結論)といった流れになる。当然、立場が変われば認定される発明やその表現等も変わってくるし、それらの違いは結論にも影響する。

一般に、結論を支持する理由付けが高い証拠力をもって証明される事実に裏付けられ、具体的妥当性(技術的観点からみた合理性等)があり、条文や過去の審決例・裁判例、学説等に沿った法的妥当性(法的安定性)を損なわない主張であるほど、有利な結果が期待される。この点を意識して起案するかどうかは非常に重要であると思う。

特許関係の書類は法律文書でありながらその法律の適用対象となる「発明」が高度な技術的事項を含むため、一見とても難しく思えるかもしれない。あくまで私見だが、明細書や図面などの出願書類の作成については発明を真に理解できる技術的バックグラウンドがある方が好ましいといえるものの、出願後に作成される種々の書類については、基本的な技術的理解力と法実務の基礎があれば、技術的バックグラウンドの有無はそれほど重要ではなく、むしろ、結論を導けるのに必要十分な範囲でその都度必要な情報を入手し、整理して分かりやすく説明できるように訓練することの方がより重要である。