特許業務法人にするメリット

士業は資格一つで独立開業できる利点があり、開業すると個人事業という形態となる。しかし、各士業ごとに定められた要件を満たすことにより、法人化することもできる。

例えば、弁護士は弁護士法人、司法書士は司法書士法人、税理士は税理士法人、社会保険労務士は社会保険労務士法人、行政書士法人という法人形態が存在する。弁理士の法人形態は「特許業務法人」という。個人的には、なぜ弁理士法人にしなかったかは疑問である。弁理士の業務領域は非常に広いため、(特許事件を扱わない)商標や意匠が専門の「商標事務所」や「意匠事務所」の弁理士事務所でも、法人化したときは「特許業務法人○○商標事務所」のようにしなければならないからである。士業の名称がそのまま法人にならない例を探すと、公認会計士は監査法人という名称になるようである。

ところで、士業法人にするメリットは何か。法人化すると、個人事業と比べ、個人の財産と法人の財産とを完全に分離できるメリットがあり、また、事業承継や事業の吸収・合併などの点でもメリットがある。また、法人化することで銀行やクライアントから社会的信用を得られやすくなることも期待される。さらに、源泉徴収が不要となる分、キャッシュフローが改善する。税制面のメリットは、現時点ではあまりないと考えられる。

では、デメリットは何か。法人設立のために定款などを準備して登記費用がかかることや、社内規定などを整備しなければならないこと、また、弁理士の場合は弁理士個人の会費の他、法人の会費も別途納付しなければならないこと。また、税務処理についても法人である分やや複雑となる。法人化前に社会保険に加入していなかった場合、加入が必要となる。

さらに、実務面ではコンフリクトや責任の問題がある。多くの弁理士を社員に持つ特許業務法人ほど、事件に関与しない弁理士の数も増えることになるが、個人ではなく法人が代理人となるので、法人の持分(出資比率)に応じた相応の責任を負担しなければならない。これを回避する方法として、事件と担当弁理士とを関連づける指定社員制度というものがある。

しかし、かなり大きな規模の特許事務所でも法人化していない特許事務所は意外に多いようである。これは、メリットとデメリットを総合的に勘案した結果といえよう。結局のところ、一長一短というほかなく、何を重視するかで変わってくるものと思われる。


2022年4月26日追記
弁理士法の改正により、「特許業務法人」の名称は廃止され、2022年4月1日より1年以内に「弁理士法人」に変更しなければならないことになりました。なお、この期間内に既存の「特許業務法人」の名称を「弁理士法人」に変更しない場合、その特許業務法人は、期間経過後(2023年3月31日)に解散したものとみなされます(改正法附則第7条第11項)。当事務所は2022年4月1日付けで名称変更の登記申請手続を行い、4月12日付けで登記手続が完了しております。