知財啓蒙活動の重要性(特許・意匠のよくある誤解)

(相談者)「この商品、とてもよく売れているので、特許出願したいのですが。」

(当職) 「最初に販売されたのはいつですか?」

(相談者)「3年くらい前です。」

(当職) 「残念ですが、特許出願はできません。正確には、特許出願はできますが、特許を取得することはできません。最初に公表した日から6か月以内(注:現在は1年に延長されている)でしたら例外的に特許を受けられる可能性はありました。ちなみに、製品の改良などを行ってまだ公開も実施もされていない発明であれば、いまからでもその改良部分について特許出願して特許を受けることができる可能性はあります。」

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当職は弁理士登録19年目であり、相談者の所属する企業の規模や事業領域、発明の技術分野・意匠の内容は実に様々であるが、この種のやりとりが意外にも多いことに驚かされてきた。特許が意匠に変わっても同様である。侵害訴訟で訴えられた被告の代理人として相手方の権利について無効調査を行った結果、出願前に製品が販売されていた事実が見つかり、無効審判により権利を消滅させたケースもある。

新規性や先願主義について一定の知識がある会社ですら、重要な基本特許となりうるものを発明しておきながら、発明から出願に至るまでに必要以上に時間がかかってしまい、結果的に何らかの不利益を受けるケースに出くわすことは、あとをたたない。

企業活動の中で知的財産に対する意識と基本的な知識を伝えるこの種の啓蒙活動がいかに重要かを物語る事例といえる。弊所では顧問先企業を中心に知的財産権についての基本的知識を伝える活動を長年に亘って行っているが、そのきっかけの多くは、出願が遅れたために当事者として権利取得を断念したり、侵害予防調査を行わず製品を市場に投入しその結果、他社から侵害警告を受け訴訟に巻き込まれたりといった、実際に何らかの大きな代償を払って初めて意識が変わったことによるものである。

新規性喪失の例外規定は1年に延長され、救済される範囲は広がったが、わが国でのみ適用される例外規定であることに変わりはなく、極力この規定に頼ることなく出願できることが理想的である。