特許制度とは

ガリレオ・ガリレイ(1564-1642)がベェニスの特許を請願するにあたって提出した書面の一節に以下のものがある。
“Your Majesty, I have invented a highly-profitable machine that pumps up water to irrigate arable lands extremely easily at a low cost. The machine ejects water continuously from its 20 nozzles by merely using the power of one horse. However, it has taken a considerable amount of trouble and expenses to invent the machine, so I do not wish to make it a common property for all people. Therefore, I would like to ask Your Majesty respectfully to kindly grant me a favor that Your Majesty would grant to any producer in a factory. That is, to ensure that all people, except for me and my posterity or those who obtained the right from me or my posterity, would be prohibited from producing that new machine, and even if they did produce it, they would be prohibited from using it or applying it for a different purpose by changing its shape and by using water or other materials, for either a period of 40 years or a period that Your Majesty deems appropriate. And, I would like Your Majesty to fine those who violate this with an amount that Your Majesty would deem appropriate, and grant a part of that amount to me. If Your Majesty would kindly grant me this favor, I will serve Your Majesty faithfully by making more diligent efforts to create new inventions for the welfare of society.”

(陛下よ、わたしは、非常に簡単で、費用も少ししかかからず、非常に便利な揚水・灌漑用機械を発明しました。すなわち、ただ1頭の馬の力で、機械についている20本の口から絶えず水が出るのです。それは非常に骨を折り多くの費用を使って完成したものであり、その発明がすべての人の共有財産となってしまうことは堪えられないことですから、恭しくお願い致します。・・・・・私と私の子孫、あるいは、私や私の子孫からその権利を得た人々の他は、何人も、上記の私の新造機械を製作したり、たとえ製作したとしても、それを使用したり、他の目的のために形を変えて水やその他の材料を用いて使用したりすることを、40年間、あるいは陛下が思し召す期間内は、許されないようにし、もしこれを犯す者は陛下が適当と思し召す罰金に処し、私がその一部を受けることができるようにしていただきたいとぞんじます。そうして下されば、私は社会の福祉のために、もっと熱心に新しい発明に力を注ぎ、陛下に忠勤を励みます。(オイゲン・ディーゼル(大沢峯雄訳『技術論』283頁(天然社、昭和18年))

特許法概説(吉藤幸朔著・有斐閣)にも引用されている有名なこの一説は、我が国の特許法の法目的を理解する上で大いに役立つことであろう。

我が国の特許法第1条は、
第一条 この法律は、発明の保護及び利用を図ることにより、発明を奨励し、もつて産業の発達に寄与することを目的とする。」と規定している。発明の保護とは、特許権による保護であり、特許法第68条に規定されている。
第六十八条 特許権者は、業として特許発明の実施をする権利を専有する。ただし、その特許権について専用実施権を設定したときは、専用実施権者がその特許発明の実施をする権利を専有する範囲については、この限りでない。」

特許権の効力は、「独占排他的効力」と言われている。特許権者(及び特許権者から実施の許諾を受けた者)のみが特許発明を実施でき、それ以外の権原のない第三者は実施できない、という意味である。このように発明を保護することにより、発明を奨励し、優れた発明を世に送り出し、公開及び実施を通じて産業の発達に寄与しようとする。新規発明公開の代償として一定期間特許権者に独占排他的権利を認めることによって産業の発達に寄与することが我が国の特許法の法目的といえ、これが「特許制度」の基本原理であり本質といえるであろう。

米国旧特許庁の玄関には、元米国大統領リンカーンの “The patent system added the fuel of interest to the fire of genius”(特許制度は、天才の火に利益という油を注いだ)という一節が刻まれているという(注1)。

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注1)特許庁ウエブサイト「特許・実用新案とは」
https://www.jpo.go.jp/system/patent/gaiyo/seidogaiyo/chizai04.html