委任状に対する弊所の基本的な考え方

弁理士は我が国の特許庁に対する手続を報酬を得て本人に代わり代理する職業代理人である。そのため、当事者間では手続に際して常に「委任関係」が成立していることが前提となる。ただし、特許庁に代理権を書面をもって証明して手続しなければならないのは、特許法第9条に列挙された、いわゆる「不利益行為」に該当する場合に限られる。

(代理権の範囲)
第九条 日本国内に住所又は居所(法人にあつては、営業所)を有する者であつて手続をするものの委任による代理人は、特別の授権を得なければ、特許出願の変更、放棄若しくは取下げ、特許権の存続期間の延長登録の出願の取下げ、請求、申請若しくは申立ての取下げ、第四十一条第一項の優先権の主張若しくはその取下げ、第四十六条の二第一項の規定による実用新案登録に基づく特許出願、出願公開の請求、拒絶査定不服審判の請求、特許権の放棄又は復代理人の選任をすることができない。

逆に言うと、出願人にとって「利益」となる行為については、明示的に代理権を証明して手続する必要はない。例えば、特許出願や商標出願、出願審査請求、早期審査事情説明書の提出、面接審査、手続補正書・意見書の提出等について、特許庁に対して委任状を提出することは、要求されない。

しかしながら、弊所では、中長期的な視野で知財戦略を総合的にサポートしていくことを希望される国内のクライアントに対しては、可能な限り、出願時から委任状をいただくようにお願いしている。この理由は、第1に、提出義務がないとしても当事者間では委任関係が存在すること及びその「代理権の範囲」を明確にしておくことが望ましいためであり、第2に、知財戦略を総合的にバックアップすることに重点をおく場合、国内優先権主張出願など、必要に応じて出願後すぐに委任状が必要になる手続を随時提案をさせていただくことが多いためである。また、我が国の特許実務では、「包括委任状」の提出が認められており、最初に包括委任状を一度提出すれば、その後はこれを援用して使用できるために、それほど大きな負担にはならないと考えられる点も理由として挙げられる。

なお、包括委任状は案件を特定しない委任状のため、代理権の範囲を特に制限しなければ「出願の取り下げ」など重大な不利益をもたらす行為も可能となる。しかしながら、この点については委任者にとって極めて重要な「知的財産権」を代理する職業代理人としての弁理士である以上、信頼関係の上に委任関係が成立している。弁理士はクライアントの利益を最大限に考えてその知識と経験に基き行動することが社会的使命であるといえ、弁理士倫理規定においてもその行動は厳しく制限されている。従って、このような不利益行為のリスクを心配する必要はないと信じていただけるようにお願いをするよりほかない。

とはいうものの、事件の内容、手続の性質、経過及びクライアントの方針等により、事件ごとに代理権の範囲を証明する「個別委任状」を希望されるケースがあるなど、変則的な場合もあり、その場合には個別的な対応をとるようにしている。