国際裁判管轄について

当事者対立系の事件で、当事者の双方が日本企業であるが、外国で特許権侵害をめぐる紛争が起こることを前提とする案件を受任したことがある。依頼内容は詳細には明かせないが現地国の特許事務所や法律事務所と協力して訴訟やライセンス交渉の際に必要となる種々の証拠を集めるなどした。

当事者の双方が日本企業である場合でも、外国の権利侵害を前提として侵害地も当該国という場合は、その国の法律が準拠法となるが、そのような場合に外国で裁判をやるとすれば、慣れない言語、訴訟手続のなかで何より現地代理人主導で裁判が進行することになり、非常に効率が悪い。そのような場合、法廷地(裁判地)を日本の裁判所にできないか、すなわち、日本の裁判所が外国の特許権に基く紛争解決に裁判管轄権を有しうるだろうか?

この問題を調べたことがある。もし可能というなら、日本企業同士、日本の代理人を使って日本語で日本の裁判官による裁判を受けることができる。こんな良いことはない。

訴訟経験豊富な先輩弁理士の助言も得ながら、参考になりそうな2つの判決にたどり着いた。事案は多少異なるが1つは米国特許権に基き米国特許法を準拠法として我が国の裁判所に提訴した事件(※米国輸出向けの日本での製造行為に対して、米国特許に基づいて差止および金銭賠償を求めた最高裁判決(*1)。)である。その判示内容についてコメントした弁護士松本直樹先生のウエブサイト(*2)には以下のような記載がある。
「4.9 最判の意義
冒頭にも記したように、本件最判(*1)の確実な意義は、外国特許権についても登録国での侵害行為という端的な事案についてであれば、日本の法廷で責任を問い得ることが確実になったことである。[高部解2]は、「今後,外国特許権について登録国で直接または間接に侵害する者に対する訴訟が提起された場合には,本判決の考え方によれば」「請求が認容される余地がある」(94頁)とする。」
他の一つは、米国特許権に基づく差止請求権不存在確認の訴えについて東京高裁が判示した判決(*3)である。米国特許権に基く差止請求権不存在確認の訴えを東京高等裁判所が取り扱った事案である。

属地主義の考え方として、実体法説と国際私法説の対立があり「国際私法の専門家は多くが国際私法説を支持」するが特許関係者の「常識」は前者という(前掲*2)。このように難しい問題を含むがとにかく日本の裁判所が管轄権を有する場合があるようだということが分かった。

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(*1)最一判平14・9・26民集56巻7号1551頁(FM事件)
(*2)弁護士松本直樹先生のホームページ
(*3)平成14(ワ)1943  不正競争 民事訴訟 平成15年10月16日 東京地方裁判所