知財コンサルティング活動
「知財コンサルティング」という言葉を急に耳にするようになった。「知財コンサルティング」を専門にする会社(特許事務所と併設される場合もある)も多数見られ、まさに、「いま、時代は知財コンサルティング」のようである。
小職は、この傾向を次のようにみる。1つは社会のニーズ、他の1つは特許事務所の経営という視点で捉えた場合の事業内容の多様化という点である。近年の円高や諸外国との相対的な関係の変化など、種々の要因が有機的に絡み合って日本国内の特許出願件数が急速に減少していることがそれらの背景にある。ちなみに、出願件数が減少していることについてよく言われることは、これまで大量に出願していた企業が事業の選択と集中・予算の効率的配分を目的として出願件数を絞り始めたこと、外国から日本への出願件数減少は市場としての日本の魅力が低下していることなどである。しかし、それだけでなく、実務的には、IPDL(特許電子図書館)の充実により事前の先行技術調査の品質が一昔前と比べて格段に進歩した結果、無駄な出願が抑えられたことが関係していると考えている。
前者(社会ニーズ)はオープンイノベーションをはじめとし、知財を活用することで産業と雇用を創出しようとする試み、或いは大企業にとってはより費用対効果の高い、中長期的な出願戦略という視点からの選択と集中の結果として、後者(事務所経営)は出願件数が減少する一方で弁理士試験制度改革による弁理士数の急増の結果として、とにかく「知財コンサルティング」の重要性が一層高まっている。
弊所は2002年の創業当初より知財コンサルティングに注力してきたが、開業間もない頃、企業知財部の活動支援を主力事業とする内容の弊所のウエブサイトを見たベテラン弁理士がその感想として、「ブレインストーミングをしたいのなら(特許事務所開業ではなく)企業の知財部に戻ったほうがいいのではないか?」と、冗談交じりでアドバイスを下さった。その当時、特許事務所に長く在籍している弁理士にとって、「ブレインストーミング」や「知財啓蒙(意識改革)」などを中心とする発明発掘・戦略的に発明を次々と生み出す仕組みづくりなどは、企業の知財部の仕事とみなされていたのだ。
しかし、それまで企業の知的財産部門に所属していた小職としては、企業の知財部がどれほど多忙であり、十分に発明創造や知財啓蒙まで手が回っていないかを知っていた。その経験を生かせることで、かつ自分の好きなこと・得意なこと・やりたいこととは、まさに企業知財部のサポートであり、既存の特許事務所との差別化を図る上で最も有効な手段として考えた結果であった。弊所にとって、知財コンサルティングにはいくつかのフェーズがある。それは、会社の規模、取り扱い分野、知財に対する取り組みの程度などに応じて種々異なるもので、一般化することは難しい。
先日、知財コンサルティングをかなり以前から重要事業として位置づけておられる、ある東京の著名な特許事務所の所長弁理士と話をする機会があった。この会談で印象的だったのは、「いま、ビジネスはどんどんと上流へ流れていっている。」ということばだ。下流では価格競争が激しくなり、十分に収益を上げられない。知財コンサルティングも特許事務所の経営という切り口でみると、大きな流れの中ではその傾向にある。それゆえ、知財コンサルティングが重要なのだ、と理解した。そういう見方も確かにあるであろう。
出願その他の通常業務は費用対効果の高い、短期間に結果を出すことが重視されるのに対して、知財コンサルティングは中長期的な投資となるものであり、大局的な視点で考える必要がある。この共通認識の下で、知財コンサルタントに携わるものは、技術の理解力・出願の価値判断・進歩性の相場観を養うとともに、方向付けを行っていくことが求められる。単に、パテントマップを描くだけでは決して十分とはいえないのである。パテントマップは専用のツールを用いればいくらでも描くことができる。結局、そのパテントマップに基づいて依頼者に何を提言するかが重要なのである。
現在は企業の知財部を対象とする知財コンサルティングを重視しているが、今後は事業性評価(ある事業を進める場合に、特許権をはじめとする知的財産権の観点から、その有効性について調査・分析し、意見を述べること)など、より経営的な視点でのアドバイスにも注力していくつもりである。