米国知財判決(US PATENT UPDATE 2010-07-01)

先月(6月)には、以前から注目していた(いずれも当ブログで言及したことのある)米国知財判決が2件でている。1つはビジネス方法発明の特許性について争われた「ビリスキー最高裁判決(In re Bilski)」(6月30日)、他の1つは先日の米国特許セミナーでの講演テーマ「虚偽特許マーキング(False Patent Marking)」事件に関するCAFC判決(6月11日)。

1.ビリスキー事件最高裁判決

Bilski事件についてはCAFC大法廷で”machine or transformation test”(機械・変換テスト)が唯一の判断基準であると判示して、従来の”Useful, Concrete and Tangible Result test”(有用、具体的かつ有形の結果)を排除した。これに対し、最高裁は、”machine or transformation test”は唯一の判断基準ではないとした上で、一般論としては、米国特許法第273条(b)(1)を根拠にビジネス方法自体の特許性は否定されないとし、また今後他の基準を考案することができると結論づけた。
ただし、本事件については、抽象的なアイデアに過ぎないとして特許性がないとしたCAFCの判断を結論として支持した。

なお、日本の最高裁や知財高裁などの判決でも、BBS事件などでも見られるように、個別具体的事情に照らして当該事件については結論として前審の判断を支持する一方で、判決の射程が予想外に広く及ばないように一般論としては許容性を広く認めておくということが多いように感じていたが、米国でも同様になった。

以前、弁理士制度110周年記念講演会で知財高裁のある裁判官の方が次のような意味のことを発言されていたことを思い出した。

「数年前、私は、あるシンポジウムで、ある弁理士の先生から、最近進歩性の判断が以前よりも非常に厳しくなったと感じるが裁判所は進歩性の基準をどう考えているのか、裁判所はその前提となる判断基準を公開してほしい。というご指摘を受けました。しかし、当然のことながら、裁判所には、法令以外に依るべき基準はありません。仮に、進歩性の判断基準を、いわばソフト的なガイドラインとして申し合わせ的なものを定めたとしても、検討されるべき複数のファクターは、それぞれ評価的・規範的な要素の高いものであり、事案に応じてそれぞれのファクターに軽重をつけて、総合判断することによって、個別の結論を得るものですから、ある判断基準を個々のケースに当てはめれば、機械的・一義的に、誰でも同じ結論をだせる、というものにはなりません。しかも、社会情勢、経済情勢、技術水準などが常に大きく変化していますから、その定めた判断基準も、それらに合わせて適時に改正してこそ、初めて妥当性を維持できるものであります。したがいまして、先ほどの話に登場したある弁理士さんのご指摘の中に出てくる便利な「判断基準」を、裁判所が設定することは殆ど不可能であります。・・・ (※1)」

そういう意味で、今回のBilski最高裁判決は、上記引用した知財高裁の考え方と合致し、かつ、条文と具体的事案に照らして結論を出したという意味において、結論・理由ともに合理性がある判決であったと考えている。

※1 弁理士制度110周年記念誌 日本弁理士会編 平成22年3月1日発行 P.250

2. 虚偽特許表示(False Patent Marking)事件について

2つめの、False Patent Marking に関する事件は6月10日判決の”Pequignot v. Solo Cup Co., No. 2009-1547 (Fed. Cir. June 10, 2010)”である。この判決でCAFCは、次の2点を判示した。

・満了した特許の表示は虚偽のマーキングにあたる
・「欺く意図」を否定するために弁護士の鑑定書に依拠できる

したがって、虚偽特許マーキングの被告にならないために予め米国特許弁護士の鑑定書をとっておくことは極めて重要である。

(2013年6月16日追記)
虚偽特許マーキングについてはAIA(America Invents Act、改正米国特許法)35 U.S.C. §292の改正により、現在は立法的解決がなされています。すなわち、制定法罰則に基づき賠償を取るため訴訟提起をすることができる原告適格を米国政府のみに限定すると共に、虚偽特許マーキングによる損害賠償請求の原告適格を実際に損害を受けた当事者のみに限定する改正を行ったことで、今後、いわゆる「マーキングトロール」の被害を受けることは事実上なくなったといえます。 

35 USC § 292 – False marking
(a) Whoever, without the consent of the patentee, marks upon, or affixes to, or uses in advertising in connection with anything made, used, offered for sale, or sold by such person within the United States, or imported by the person into the United States, the name or any imitation of the name of the patentee, the patent number, or the words “patent,” “patentee,” or the like, with the intent of counterfeiting or imitating the mark of the patentee, or of deceiving the public and inducing them to believe that the thing was made, offered for sale, sold, or imported into the United States by or with the consent of the patentee; or
Whoever marks upon, or affixes to, or uses in advertising in connection with any unpatented article, the word “patent” or any word or number importing that the same is patented, for the purpose of deceiving the public; or
Whoever marks upon, or affixes to, or uses in advertising in connection with any article, the words “patent applied for,” “patent pending,” or any word importing that an application for patent has been made, when no application for patent has been made, or if made, is not pending, for the purpose of deceiving the public–
Shall be fined not more than $500 for every such offense. Only the United States may sue for the penalty authorized by this subsection.
(b) A person who has suffered a competitive injury as a result of a violation of this section may file a civil action in a district court of the United States for recovery of damages adequate to compensate for the injury.
(c) The marking of a product, in a manner described in subsection (a), with matter relating to a patent that covered that product but has expired is not a violation of this section.