PCT出願の「新規性喪失の例外の申立て」
弊事務所では、新規性喪失の例外の手続は、種々の理由から、極力この制度を利用しないことをお勧めしています。戦略的に知財を運営している企業や団体では、知財関係者と発明者が正しい知識と意識を持つことで、可能な限りこの制度を利用せずにすむことができるはずです。
しかし、状況によっては、やむを得ず利用しなければならないこともあります。
日本での手続は特許法第30条に規定されていますが、日本で新規性喪失の例外手続をした特許出願を基礎として、PCT国際出願を行う場合には、「PCT第4.17規則に規定する申立て」という制度を利用すると便利です。「申立て」の記載事項及び記載方法の詳細は規則及び実施細則に説明されていますが、要するに、願書の任意的記載事項として、「申立て」を記載できる、というものです。
タイトルにある「新規性喪失の例外の申立」は、5つある申立事項の一つ「不利にならない開示又は新規性喪失の例外に関する申立て」として、所定の形式と内容に従って国際出願の願書に必要事項を記載しておくことで、その内容に関しては以後どの指定官庁からもそれ以上の証拠の提出を要求されないという効果があります(※1)。もちろん、新規性喪失の例外制度を持たない国(欧州等)が指定国となる場合、この制度は全く意味を持ちません。
なお、この制度の詳細は特許庁ウェブサイトで非常に分かりやすく説明されています。
https://www.jpo.go.jp/system/patent/pct/tetuzuki/tt1303-044_qanda.html
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※1 2021年12月8日追記(親切な方から先ほどご指摘がありましたので補足しました。)
新規性喪失の例外に関する申立ては、その内容が実体審査に関係するため、指定官庁が証拠を要求する権限は制限されていません。国際出願を我が国に移行する「自己指定」の場合、指定国としての日本は、5つある申立事項のうち、「新規性喪失の例外」に関してのみ、それに関する申立ての提出に加えて、従来どおり特許法第30条に基づく証拠の提出(具体的には、国内処理基準時の属する日後30日以内に、発明の新規性喪失の例外規定の適用を受けようとする旨を記載した書面及び「証明する書面」を提出すること)が必要です(特許法184条の14、特施38の6の4、特施27の3の2)※2。
※2 平成30年度知的財産権制度説明会(実務者向け)テキスト (目5、P.57-58)
https://www.jpo.go.jp/news/shinchaku/event/seminer/text/document/h30_jitsumusya_txt/08.pdf
なお、上記の手続が必要なのは、たとえ我が国に特許出願された基礎出願において特許法第30条の規定の適用を受けていても、優先権主張出願の際には改めて特許法第30条の規定の適用を受けることが必要であるためである。(新規性喪失事由や時期的期限が現在より厳しかった)平成23年改正以前の特許法30条の事案ではあるが、同条第4項の手続について争われた裁判例「NK細胞活性化剤 知財高裁判決」
https://www.ip.courts.go.jp/app/files/hanrei_jp/285/087285_hanrei.pdf
が参考になる。